社会調査法入門第13回

投稿者: | 2022 年 7 月 1 日

第13回をはじめます。


前回は、

ホワイト(William F. Whyte)の「ストリート・コーナー・ソサエティ」1943 から始まりました。

詳細は、質的分析法の授業で扱います。

ボストンのイタリア人街における非行青少年集団の構造と人間関係を明らかにした、最も成功したシカゴ学派的調査といわれています。

参与観察を行い、福祉調査の系譜だけでなく、白人中産階級からみると、貧困を原因とする低い・遅れたものとして評価されがちな社会下層の人々の行動様式が、その社会や集団独自の規範や文化に支えられていることを物語っている著作です。

ちなみに、当時のシカゴ・モノグラフのテーマには、以下のようなものがありました。
1.ホボ(hobo、渡り労働者)、2.家族解体、3.人種、4.マイノリティ・移民、5.犯罪・暴力、6.少年非行7.ホテル・下宿・スラム、8.売春、9.自殺


つぎに、スタウファー(Samuel A. Stouffer)の「アメリカ兵」(1949-50年)。

シカゴ大のスタウファー他が指導し、第2次世界大戦中に、米軍兵士の士気を維持し、高めることを目的に行われた意識や態度の研究です。

真珠湾攻撃の翌日に最初の調査が行われました。

相対的剥奪relative deprivation)概念など、その後の社会学(社会心理学)理論の発達に大きな影響を与えています。

調査法・測定法・分析法も改良され、量的調査(統計調査)の発展に寄与しています。

第二次大戦中のアメリカ兵の態度・感情・行動の調査結果によると、

航空隊は憲兵隊より昇進が早いにもかかわらず、航空隊の兵士には憲兵隊の兵士よりも昇進に関してより多くの不満が見られました。

憲兵隊に不満が少ないのは、自分と同程度の教育レベルでありながら、まだ自分の地位より下の兵が8割もおり、彼らと比較して優位を感じていたからであり、

航空隊に不満が多いのは、自分と同程度の教育レベルで、同レベルの地位に留まっている兵が約半分しかおらず、同教育レベルなのに地位が上位の兵に不満を感じていたため、であると考えられました。

相対的剥奪として知られています。

  • 剥奪を感じる人とは、対象となる地位や財を欲しているが、それを持っていな い人である。また集団の中に地位や財を持つ人と持たない人が混在しているとき剥奪が生じる。
  • 対象となる地位や財の所有が可能であると思っていなければ、剥奪は生じない。

同時期の、トマスとズナニエツキの『ヨーロッパとアメリカにおけるポーランド農民』も有名です。

ポーランドから移住してきた若者と実家で暮らす家族との手紙などを資料としてドキュメント分析を行った調査です。いろいろなものが資料として使われていることを知っておいてください。


今回はここから。

日本での調査

では、日本での調査を振り返っておきましょう。
これは以前にも軽く触れていました。

意識の国際比較調査にその経緯が書かれています。

昭和20年代(1945年〜)は、国の復興という大義の下で、優れた人材が集合し、優れた統計調査のシステムが創造されていった時代でした。

戦後、米国政府の一部が主張する「日本語のローマ字化」に対し、統計数理研究所を中心として大規模な統計的無作為標本抽出法が実践的に開発され、

1948年に「日本人の読み書き能力調査」が遂行(すいこう)、その結果、民主主義の発展に十分な日本人の学力を確認し、日本語を救ったと言われます。

この際に開発された科学的世論調査が戦後民主主義の発展の動力となり、またその方法に基づき、

1953年には「日本人の国民性」調査が開始されました。これは、今日では半世紀以上にわたる継続調査となり、各時代の日本人の意識や価値観を浮き彫りにしてきました。

参考:日本人の国民性調査ほか(pdf)、日本人の国民性調査

これは文部省をはじめ官民学の支援を得て発展してきた日本の独創であり、その後、米国のGSSやWVS、ドイツのALLBUS、欧州のEVSなど、世界各国が同様の一般社会調査を展開していく先駆けとなりました。

1973年には、「日本人の意識」調査が開始されました。
5年毎に生活目標や生き方、家庭や男女のあり方、仕事や余暇、政治、宗教、ナショナリズムなど広い範囲にわたる日本人のものの考え方・価値観の実態と変化を把握し、今後の動向を読み取ることを目的として、行われています。

第10回「日本人の意識」調査(2018)結果の概要 に移り、グラフを見ておきましょう。
第10回「日本人の意識」調査(2018)の結果について

  • 5 年ごとに同じ質問、同じ方法で世論調査を重ねることによって、日本人の生活や社会についての意見の動きをとらえる目的。
  • 1973 年の第 1 回から数えて、今回が10 回目。
  • 調査時期:2018 年6月 30 日(土)~7月 22 日(日)
  • 調査相手:全国の 16 歳以上の国民 5,400 人(層化無作為二段抽出)
  • 調査方法:個人面接法
  • 有効数(率):2,751 人(50.9%)

日本人の意識調査(日本世論調査協会)と合わせて見ることで、現時点で日本人がどう考えているかが、見えてくると思います。

自分と比べて、同じところ・違うところはありますか?


ベネディクト『菊と刀』(1946)では、

  • 当時、謎とされていた日本人のことをアメリカにいながらに文化人類学の方法を用いて調べた結果が報告されています。
  • 戦前から戦時中にかけての日本人の生活様式や社会的思考様式が一つの個体として切り取られています。

つづいて、SSM調査とその問題点を見ておきましょう。

SSM調査社会階層と社会移動(Social Stratification and Social Mobility)全国調査)は、「日本人の国民性」調査(文部省統計数理研究所)、「日本人の意識」調査(NHK)とともに、日本の三大社会調査の1つとされています。

社会階層とは 、収入や学歴や政治力など、様々な「社会的資源」が、社会全体の中で不平等に分配されている状態のこと(不平等分配の構造)

社会階級は、生産手段を保有するかどうかという1つの尺度により、社会全体を資本家、中間層、労働者に分ける考え方です。

社会階層は、複数のものさしによって通常は連続的に測定し、カテゴリーを作る時は職業によって日本社会全体を分けて考えます。

例えば、自営業層、農業層などは社会階層の考え方の一つで、職業は、様々な社会的資源の総合的指標として考えられています。

社会移動とは、社会階層のあいだを人が移動することと言えます。

日本の社会は、現在においてもなお、身分階層的な構造を残しているといわれています。
しかし、現代日本社会の階層的構造を全体的に概観しうる科学的調査は、これまではほとんどされていませんでした。

そこで、1955年以降10年毎、2005年第6回調査まで、全国の研究者からなる調査委員会によりSSM調査が実施されました。大規模かつ長期間継続されてきた調査として、国内のみならず、海外でも有名です。

2015年「社会階層と社会移動に関する全国調査」(SSM調査)の実施 「中央調査報(No.712)」より ー 東京大学 白波瀬佐和子先生
は、歴史から詳細にわたって書かれていますので、ご参考に。

日本の経済発展や社会構造の変化と日本人の社会移動や階層意識のあいだにどのような関連性があるのかということを分析するため、戦後日本社会において、教育が社会移動をどれだけ促進しているのか、機会均等がどの程度まで達成されているのか、を明らかにするために実施されました。

具体的には、日本社会に、どのような不平等構造(様々な社会的資源の不平等分配の状態:社会階層)があるのか

社会的資源とは、収入や学歴や威信など、人々の欲求対象だが十分には存在しないものを表します。

また、社会的地位(階層的地位、具体的には職業)はどのようなメカニズムで形 成されているのか

社会や不平等に対する認識や人々の社会意識の違いの解明を目的として行われています。

すなわち、日本社会の「後進性」、「身分階層的秩序」、日本人の「階級意識」等を明らかにするために実施されてきました。

社会階層・社会変動を分析する上で、欠かせないデータとなっています。

  • 対象者
    • 1975年の第3回調査までは、男性のみが調査対象
      • 選挙人名簿を用いて無作為抽出を行い、全国の20-69歳の有権者を対象。
      • したがって70歳以上の高齢者は含まない。
      • 1955年当時は、70歳以上の人は少なかった。
    • 1985年第4回調査以降は、20−69歳の男性・女性も調査対象。男女別々にサンプリング。
    • 普通は高齢の女性が長生きするなど男女比に偏りがあるが、SSM調査の標本 は、その偏りは反映していない。
    • 最近の他の調査は、高齢者も対象としているものがあるので、比較の際は注意が 必要。
    • 全国から層化2段抽出法により無作為抽出
    • 他記式個別面接法(2005年調査のみ留置票付加)
  • 質問内容
    • 学歴、職業、収入(経済状況)、社会意識
    • 学歴・職業は、本人のみならず父・母・配偶者にも調査
    • 本人の学卒後初の職業から現職まで、
      従業先・仕事の内容(職種)が変わるごと、全ての職業履歴を尋ねている
    • 親子で同じ職業が多いか(社会移動の閉鎖性が高いか)
    • 親の社会的地位によって本人の学歴に違いがあるか(教育社会学)
    • 女性研究、社会意識、政治意識など
    • 日本の社会学の中で数少ない、国際的に通用する研究成果
  • 調査主体
    • 第1回のみ日本社会学会調査委員会によって実施、
    • 1960年には東京周辺での調査も行われ、
      1995 年は、科学研究費特別推進研究を用いた任意の研究グループ(1995年SS M調査研究会)によって実施されました。
    • 継続的な組織はなく、全国の社会学者が、その都度、組織を作って実施されてきました。
  • 予算
    • 2015年調査は、文部科学省科学研究費補助金の特別推進研究として4年で総額3億円超。

これまでの調査票は、東京大学の社会学研究室で保存されています。

SSM調査のページ-社会階層と社会移動全国調査の解説 by 立教大学社会学部 村瀬洋一先生のサイトでは、これまで調査に携わった人しか語れないことが書かれています。

参考


SSMの問題点

社会調査では、回収率が伸びないことが問題となっています。

特に長時間労働や夜間労働の階層、低学歴や低収入の人、都市部の一人暮らし層の回答が少なくなっています。

1955年のSSM調査では、回収率が80.6%でした。

ロックフェラー財団の資金を得て国際比較調査の一貫として実施。社会学者によ る戦後初の本格的な社会調査でした。

1960年のSSM東京調査では、回収率が62.6%。

1965年のSSM調査では、回収率が71.6%。
研究資金が少なく、安田三郎らによる個人的な努力で行われ、成果は『社会移動 の研究』にまとめられましたが調査報告書は出ていません。

1975年のSSM調査では、2種類の調査票が使用されました。
A票 計画標本4001人 有効回収数2724人 回収率68.1%
B票 計画標本1800人 有効回収数1296人 回収率72.0%

職業威信に関して調査され、パス解析や地位の非一貫性などについて分析が行われました。

1985年SSM調査では、男性A、男性B、女性票と3種類の調査票が使用され、 全体回収率が63.3%でした。

1995年のSSM調査は、約1万人を対象として、A票、B票、威信票の3種類の調査票が使用され、全体回収率が67.5%であり、面接法により適切に行われていました。

  • 1995年までのSSM調査は、全国の大学が協力して実査を行うなど、質の良い データをとるための努力がなされていました。
  • 2005年のSSM調査は、東北大のみが実査の一部を担当しただけで、調査 会社に丸投げ状態でした。その結果、3割程度の回収率となりました。

2005年のSSM調査では、約1万4千人を対象。予備サンプルや補充サンプル等といわ れるものを用いず厳密に計算した回収率は3割程度でした。

  • 若者調査と称するインターネット調査も実施されましたが、回収率が伸びませんでした。

2005年の調査以降は、一部に留め置き法を使うなど、調査法を変更しましたが、回収率が低く、低階層の人が少ない偏ったデータになっていて、階層研究のためには使いづらいデー タになっています。

  • また、韓国と台湾でも調査を行いましたが、これは回収率が低いなど問題があ
    り、データは公開されていません。

2015年の調査は、1万6千人を対象。調査会社に実際の調査実施を委託しましたが、予備サンプルや補充サンプル等といわれ るものを用いず厳密に計算した回収率は4割程度でした。

冬の寒い時期の調査では、高齢のパート女性が多い調査会社の調査員達が一日中、熱心に活動するのは困難ことなども原因の1つとなっています。


社会調査によく似た言葉に、社会踏査(Social Survey)があります。

社会調査に含まれますが、社会調査(social research)と同義で用いられる場合もあります。

特定のコミュニティの状況を、様々な側面から包括的に探求するものであって、地域社会の問題解決という実践的志向の強い調査を指しています。

調査票調査のみならず各種の観察法や聞き取り調査なども併用して、量的・質的双方の多様なデータを収集するところに方法的特質があります。

社会学では、社会踏査というこの言葉も使われていますので、知っておいてください。

今日はここまでにしましょう。